
♪♪ きほん|相手の実際の経験から、商品仮説を見直す
「この返信支援アプリ、あったら便利ですよね?」
ほんねくんが尋ねると、相手は「そうですね」と答えてくれました。うれしくなったほんねくん。でも、その一言だけで「お客さまが欲しい商品」と考えてよいのでしょうか。
第10話では、返信案の品質や、確認・修正までの時間を確かめる方法を考えました。今回は、そもそも助けようとしている仕事が、相手にとって重要な困りごとなのかを聞いてみます。😊
※登場する研修会社「まなびサポート」、会話、業務の状況は学習用の架空の例です。顧客への聞き取り実績や導入実績ではありません。
結論:「欲しいですか?」の前に、最近の経験を聞こう
商品を説明すると、相手が気を遣って「よさそう」と答えてくれることがあります。その感想は参考になりますが、実際に困っていることや、購入する意思まで確認できたわけではありません。
まず聞きたいのは、「最近、どんな場面で、何に手間がかかりましたか?」です。相手が経験した具体的な一件から、今の手順、負担、すでに行っている工夫をたどります。
今回はコードやアプリの機能を増やす回ではありません。次に何を作るか判断するための、短い聞き取りを準備する回です。
1.聞く相手と、確かめたい仮説を一つ決める
ほんねくんの最初の商品仮説は「少人数の研修会社の、似た問い合わせへの返信準備を、AIの下書きと人の確認で助ける」でした。
この仮説を確かめるなら、まず実際に問い合わせを受け、返信している担当者に聞きます。「AIに詳しい人」だからといって、その仕事の実情を知っているとは限りません。
同じ会社でも、使う担当者と購入を決める人は異なる場合があります。担当者には作業の流れや負担、責任者には導入判断の手順や条件を、役割に合わせて聞きます。
最初の聞き取りでは、例えば「返信を書く時間が負担になっている」という仮説を一つ置きます。「資料探しや確認待ちの方が大変なのでは?」という別の可能性もメモしておくと、都合のよい答えだけを集めにくくなります。
2.最初はアプリを見せず、一件を振り返る
冒頭は「問い合わせ対応で手間がかかる場面を知りたいので、15分ほどお話を伺えますか」と目的と時間を伝えます。話しにくい内容は省いてもらい、メモを取ってよいかも確認します。録音する場合は別に了承を得ましょう。
最初から機能を並べると、相手の話がアプリへの感想に寄りやすくなります。まずは、最近の仕事について聞いてみます。

| 聞く順番 | 質問例 |
|---|---|
| 最近の一件 | 最近、返信に手間がかかった問い合わせを教えてください |
| 実際の手順 | 受け取ってから返信するまで、何をしましたか? |
| 負担の場所 | その中で、どこに時間や確認が必要でしたか? |
| 現在の工夫 | 今はどんな方法で対応していますか? |
| 優先度 | ほかの仕事と比べ、改善を急ぎたいことですか? |
答えが抽象的なら「そのときは、どの資料を見ましたか?」「次に誰へ確認しましたか?」と一段だけ具体化します。相手が覚えていない時間や回数は、無理に数字にせず「不明」と残します。
3.「AIなら便利ですよね?」を、言い換える
こちらが答えを示すような質問は避け、相手の説明を聞ける形にしましょう。
| 答えを誘いやすい聞き方 | 経験を聞く言い換え |
|---|---|
| AIで返信できたら便利ですよね? | 最近の返信は、どのように準備しましたか? |
| 毎日かなり時間がかかりますよね? | 最近の発生頻度と、一件の対応を教えてください |
| 下書きがあれば解決しますか? | 今のやり方で、一番困るのはどこですか? |
| 月額なら払いますか? | 似た道具を導入したとき、どう判断しましたか? |
将来の希望を聞いてはいけないわけではありません。ただ、実際にした行動と、今後そうするつもりだという話は分けて扱います。
また「その問題はありません」「今のテンプレートで十分です」という答えも大切です。反論してアプリの良さを説明するより、何が十分なのか、どんな場合だけ困るのかを確かめます。
4.聞いたことと、自分の解釈を分ける
例えば、担当者がこう話したとします。
「文章は定型文を直せば済みます。でも、最新の料金表がどこにあるか探すことがあります」
ここからすぐ「資料検索AIを作ろう!」と決めるのは、まだ早い段階です。まず、分かったことと、推測を分けます。

| 記録する区分 | 今回の架空の例 |
|---|---|
| 相手の発言・説明 | 定型文を使う。最新の料金表を探すことがある |
| 自分の解釈 | 下書きより、案内情報の整理が優先かもしれない |
| 未確認の点 | 発生頻度、探す時間、資料の管理者は未確認 |
| 次に確かめること | 最近の資料探しの手順と、情報の更新方法を聞く |
相手の説明だけで確認した情報と、了承を得て資料などで確認できた情報も、必要に応じて区別します。顧客名や問い合わせ原文を、聞き取りに不要な範囲まで集める必要はありません。
AIにメモの整理を頼むなら、外部へ渡してよい範囲を確認します。また、AIが出した「顧客の声」を、実際の聞き取り記録に混ぜないようにしましょう。
5.アプリを見せるなら、仕事の話を聞いた後にする
後半で試作を見せる場合は、今できることと未対応の範囲を短く伝えます。今回なら「確認済みの案内と質問から返信案を表示する学習用の試作で、人が確認する仕組みです」と説明します。
用意済みの返信を表示する練習画面は、AIがその場で考えた結果ではありません。画面の練習なのか、実際にAIへ接続した結果なのかを伝えてから見せます。
そのうえで「便利ですか?」だけでなく、「先ほどの仕事の、どの部分で使えそうですか?」「使う前に何を確認したくなりますか?」「今の手順に合わないところはありますか?」と聞きます。
「褒めてもらうより、使えない理由も聞いた方が、次に直せるんだね」
試用に進めそうなら、担当者、対象の作業、使う架空データ、確認する項目、日時などを具体化します。試してもらえることと、購入が決まることは別です。
6.一人の話で、市場全体の結論にしない
一人の詳しい経験から、仮説を直す手がかりは得られます。ただし、その一人の状況を、すべての研修会社へ広げて考えることはできません。
次は似た役割の別の人にも聞き、共通点と違いを探します。何人聞けば必ず正解が分かる、という人数の決まりはありません。仕事内容、会社の体制、現在の道具などの条件も一緒に残しましょう。
結果が異なったら、無理に平均的な顧客像を作らず、「定型文が整っている会社」「案内の更新に困っている会社」など、違いを説明できる条件を探します。
ほんねくんは、商品仮説に追記しました。
「返信案だけでなく、確認済みの案内をそろえる手間も確かめる。まずは一件の流れを、もう少し聞いてみよう」
これは仮説の見直しです。まだ資料管理機能を作ると決めたわけではありません。
今日の実践:15分の聞き取りを準備しよう
同梱の「聞き取りシート」に、相手の役割、確かめたい仮説、最近の経験を聞く最初の質問を書きます。続けて、上の表から質問を三つほど選びましょう。
実際に聞ける相手がいれば、目的と所要時間を伝えて依頼します。まだ相手がいなければ、まず対象となる仕事をしている人を探します。AIとの模擬練習は質問を整えるために使えますが、実際の顧客に確認できた証拠にはなりません。
聞いた後は「相手が話したこと」「自分の解釈」「未確認の点」を書き分け、商品仮説を一行だけ更新します。変更しない場合も、その理由を残しましょう。
🍀 今日の理解
相手の最近の経験、現在の工夫、困りごとの優先度を聞くと、何を助けるべきかが具体的になる。
🔍 ほんねチェック
「よさそう」という言葉を、購入意思に置き換えていませんか。誰が使い、誰が判断し、どんな条件で導入するのかは、段階を追って確認します。
📝 会社づくりメモ⑪
- 実際にその仕事をしているのは誰?
- 最近の一件で、どこに負担があった?
- 今は何で対応し、何が足りない?
- 分かったことから、商品仮説をどう直す?
次回予告:最初の商品は、どこまで作る?
聞き取りと試用の結果をもとに、最初に届ける範囲と、今は作らない機能を決めます。
「ほんねくんのAI起業ラボ」は全24話。原則1日1話、休みを挟みながら、AI・ITの理解から小さな事業づくりまで進めます。
前回:第10話「小さく試して、役立ったかを確かめよう」